近ごろ、「フリーランスのWEBデザイナーです。お仕事を探しています」というお問い合わせを多くいただくようになりました。
独学や職業訓練校で学び、自由な働き方や自分らしいライフスタイルを実現しようと新たに独立されるフリーランスのデザイナーが増えています。
ライフスタイルの多様化も、とても大切な流れです。
しかし、実際にはなかなか案件を獲得できなかったり、仕事が続かなかったり、紹介やリピートにつながりにくいという声も多いようです。
そうした違いは、“技術”よりも“思考”の部分にあるのではないでしょうか。
デザインツールを使いこなす、見た目の整ったビジュアルをつくる──それは「できる」段階。
しかし「通用する」デザインとは、目的を理解し、クライアントはもちろんのこと、その先にいる顧客側の視点を反映できるもののことを指すのではないでしょうか。
現場で学ぶとは、他者の視点を自分の思考に取り込むことといえます。
それができる人ほど、次の依頼へと自然と繋がるように思います。
独学や訓練校ではツール操作やレイアウト理論を学べますが、実際の仕事ではその前段階──観察・洞察・対話がすべてを決めるように思います。
◎デザインする前に、相手の意図をどれだけ汲み取れているか。
◎自分の“好き”と、クライアントの“成果”を切り分けて考えられているか。
◎「なぜその表現にしたのか」を自分の言葉で説明できるか。
こうした思考の部分こそ、デザイナーとしての成熟を左右する要素といえます。
多くの人が「デザインアイデアが枯渇してしまう」と悩むようですが、デザインとは発想力よりも、観察の精度が重要なのではないでしょうか。
「なんとなく良い」を言語化し、なぜそう感じるのかを探る。その積み重ねによって、他者の価値基準を理解する力が身についていきます。
観察を重ねるほどに、“自分の美意識”と“他者の視点”のあいだにある境界が見えてきます。
その境界を丁寧に整理できるデザイナーほど、ジャンルやテイストを超えて柔軟に対応できるように感じます。
デザインは自己表現ではなく、伝えたいことを誰かと共有するための媒介です。
だからこそ、“伝える”よりも“伝わる”を意識することが大切なのではないでしょうか。
相手の理解速度や視線の流れ、言葉の温度──
それらを踏まえ、相手が自然と受け取れる状態を整えることがデザインの本質だと思います。
つまり、良いデザインとは、相手の思考負担を減らすことです。
そう考えられるようになった時、デザインは「作品」から「仕事」へと変わるのかもしれません。
駆け出しのうちは“正解を見つける”ことに意識が向きがちですが、
プロとして成長していくデザイナーほど、“正しい問いを立てる”ことに時間を使うように思います。
◎本当にこの課題はデザインで解決すべきなのか。
◎誰の不満を、どんな感情で変えたいのか。
◎もし何も作らなかったら、何が起きるのか。
問いを深めるほどに、答えはシンプルになります。そして、そのシンプルさが、説得力を生みます。
良いデザインは、良い問いから生まれる。多くの案件と向き合うことで、そのことを実感します。
成果を追えば無骨に、美しさを求めれば自己満足に傾く。
この矛盾の中で、どこに折り合いをつけるかがデザイナーの成熟を映します。
CUREでも、デザインレビューの場でよく話題になるのは「どちらが目的に近いか」という問いです。
“綺麗” “かっこいい”という感覚は大切にしつつも、最終的な判断は、クライアントはもちろんのこと、その先にいる顧客の目的に自然と軸足を置くようにしています。
その意識の積み重ねが、プロとしてのデザイン思考を形づくっていくのです。
継続的に仕事を依頼されるフリーランスのデザイナーは、常に自分の“正しさ”と向き合っていく必要があるのではないでしょうか。
方法が本当に相手にとって最適解なのか、もっと良い手段はないのか──
その問いを持ち続ける人ほど、経験を「学び」に変え続けられます。
ツールや流行は変わりますが、考えを更新できる思考こそが、デザイナーにとって最も確かなスキルです。
フリーランスのデザイナーとしての独立は魅力的ですが、本気でデザインを生業にしていきたい方ほど、
最初の数年はクリエイティブ会社などで経験を積むことも一つの近道ではないでしょうか。
さまざまなクリエイターと現場の中で交わされる対話やレビュー、そして多角的な考察を重ねる時間を通して、
デザインの“判断軸”が少しずつ体に染み込んでいくように感じます。
チームで動くことの難しさと同時に、他者の視点に触れる貴重な時間でもあります。
最後に、私的な想いではありますが、
お問い合わせをいただく際のプロフィール欄について、住所の記載がない方を多く拝見します。
個人情報の観点から控えられているのかもしれませんが、長い目で見ると、きちんと記載しておく方が良いように思います。
住所を伏せていると、「信頼できないからなのか」と受け取られることもあり、
その状態でチームとして関係を築くのは、どうしても難しくなってしまうのではないでしょうか。
フリーランスのデザイナーであるほど、“どこの誰か”がわかること自体が、案件獲得や信頼の第一歩です。
デザインの技術は学べます。しかし、思考は現場でしか磨けません。
クライアントやチームとの対話の中で、自分の価値観を揺さぶられ、再構築していく。
その繰り返しの先にこそ、職業デザイナーとしてアップデートし続ける契機があるといえます。
つまり、
“デザインができる人”ではなく、“考えられる人”であること。
その姿勢こそが、信頼へ、そして次の仕事へと自然に繋がっていくのではないでしょうか。